事務所を借りる[起業話#9]

初めての仕事を納品し、その後も立て続けに依頼をいただき、精力的に活動を始めていたが、その頃はまだ空いた時間はサーフィンをするために真面目に海に通っていた。

実家ぐらしの僕は、屋根裏部屋にデスクトップを置き、昼夜制作に勤しんで来たが、サーフポイントとなる海岸までは車で30分ほどかかった。

そのため、天気予報とにらめっこしたり、友人からの情報でいい波が来ていると分かると、ソワソワしっぱなしだった。

海に入りたくても、やらなければならない仕事があるときには、それをこなしてから海へ向かい、もうその頃には、波が落ちてきたりしている事が多く、ガッカリしたり、朝一で海に向かい、普通の人が働く時間に実家に戻ったりしている内にどうしてもその移動時間がもったいなくてしょうがなくなってしまった。

いい波が来ていれば直ぐに海に入りたい。

でも仕事もきっちりこなしたい。

その葛藤の末、僕が選んだのは、海の近くに事務所を借りるということだった。

しかも、海上がりにシャワーが浴びられるように風呂付であることが必須だったので、アパートの一室を借りることにした。

当然、家賃というものがかかるが、その頃には常に3、4本の仕事を抱えている状態で、売上は貯まる一方になっていた。

だから、多少コストを掛けても十分な利益が残る状態だったのだ。

ちょっと前までは、お金がなくなる不安に追われかけていたが、その頃にはもう余裕をもって敷金礼金を払って事務所の手続きができるまでになっていた。

しかも地方の海辺の町は家賃がとても安かった。

1LDKで駐車所までついて、確か4万円代だったと思う。

それまでは寝る場所も仕事の場所も同じ建物内だったため、メリハリがつきにくかったが、寝食をする場所と仕事場をある程度の距離で隔てることによって、気持ちのON・OFFがきっちりつくようになった。

こうして新しく「仕事場」を持ったことによって、一段と気持ちが高まったことを覚えている。

それは、自分自身がちょっと誇らしい気持ちだった。


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