体が資本[起業話#16]

起業して社長となった人間が、クライアントやビジネスパートナーに「今日は体調が悪くて」なんて言い訳をして、仕事に穴をあけようものなら、次からの依頼がなくなっても不思議じゃない。

ましてや、寝坊して会議に遅れましたなんてことは、もってのほかだ。

風邪を引いて熱をだすこともたまにあったが、自分が経営者だという自覚を持ってからは、不思議なことに風邪を引くことがめっきり少なくなった。

時折、不意に体調を崩すことがあっても、崩しきる前に治したり、仕事に穴をあけることなく、回避できるようになった。

経営者は体が資本だ。

代わりがいないのだから。

だから、なるべく健康や食べ物、生活習慣に気をつけるべきだと思う。

しかし、実際は夜の席の付き合いも多かったりと、なかなか苦労が絶えないのも事実だ。

そうなってくると、経営者というのは無理をしがちになる。

僕が一度失敗したのは、企業した翌年の夏のことだ。

その時は、立て続けに急ぎの仕事が入り、連日連夜遅くまで仕事をしていた。

何本か並行して抱えている仕事の中に、スタッフには任せられない、僕にしかできない仕事が一本あったのだ。

そういった状況の中、その日は、事務所で朝方まで仕事をしていたため、家に帰るのがおっくうになり、事務所のソファーで仮眠をとることにした。

すると、仮眠を取っている最中に突然、腰の後ろに激痛が走った。

あまりの痛みに冷や汗が出て、もう、動けないのだ。

ぎっくり腰なのか、何なのか、経験したことがない痛みに結局寝られずに悶絶し、その後朝を迎え、病院に行っている暇などなかったが、とりあえず朝一で診察してもらった。

しかし、不思議なもので、病院に着く頃には痛みが和らいでしまった。

医者の見立てでは、尿結石が腎盂か尿管を刺激したため、激痛が発生したものの、尿と一緒に流れてしまったのかもしれないとのことだった。

だが、その際、組織を傷つけているかもしれないので、処方された薬をきちんと飲むことと指導された。

ここで僕は、バカなことをした。

処方された薬を薬局に取りに行くことなく、飲まなかったのだ。

あの激痛がなくなったことと、たいした病気じゃなかったという安心感、そして、1分でも早く仕事に戻らねばという思いが先行したのだ。

そして、これがその後の悲劇をうむ。

その後、2日ほどが過ぎ、同じようにハードに仕事をこなす日も続いたが、僕しかできない仕事もいよいよ終盤・・・。というところで、今度は食事をとった後に、急に気分が悪くなり、高熱が出て、再び動けなくなったのだ。

翌日になっても熱が下がらず朦朧とする中、友人に病院に連れて行ってもらった。

診断結果は、腎盂腎炎だった。

あの時、薬を飲まなかったから、症状が悪化したのだ。

医者には、即入院。入院期間は約10日間と告げられた。

入院?しかも10日も??

仕事があるから、そんなには入院できないと言ったが、歩けずに車椅子に乗せられている状態では、なんの説得力もなかった。

結局、病院からスタッフに電話で指示を出し、山のように溜まった仕事も、僕にしかできない仕事もスタッフにやってもらった。

慣れない難しい仕事に、スタッフにはかなりの負担をかけてしまったと思う。

そして、実際に指示を出せばスタッフでもやり遂げることができたのだから、僕にしかできない仕事ではなかったのだ。

もちろん、クライアントからも心配されたものの、苦い声で進捗への不安を吐露された。

この経験が、あったからこそなおさら僕は、自分の体の調子をビジネスに影響させないことに執着した。

人間、生きて入れば、常に健康で元気でいることは難しいかもしれないが、経営者が置かれた環境は厳しい。

なにがあっても、地を這ってでもビジネスを成し遂げるぐらいの気概が僕は必要だと思う。

そして、「自分にしかできない」という状況は、会社としては脆弱だ。

この点は、経営者として常にどうすべきか、どうあるべきかを考え続ける必要がある。


体が資本[起業話#16]体が資本
[起業話#16]

その程度の人間[起業話#15]

僕がWEB事業を個人事業で始めたころは、僕が住む地方都市では、まだまだこの業界はうなぎ登りの好景気だった。

そのため、当然それにあやかろうという知識もプロ意識もないぽっと出の自称「WEBディレクター」がウヨウヨいた。

その人達は、営業力があったら、それはそれはやっかいで、口がうまいので、仕事を取ってくるが、自分では、どうすることもできないので、僕らのようなWEB制作ができる人間にそれを振ってくる。

別に良いのだが、僕がよく腹を立てていたのは、そいつらのプロ意識のなさだった。

知識が少なくても、それを認めていて、「教えてほしい」という姿勢と、知識がないながらもクライアントのために最高の仕事がしたいから協力して欲しいという姿勢のWEBディレクターには気持ちよく協力、むしろ仕事をさせていただけて感謝の思いで接することができたが、少しは、勉強すればいいものを、全く勉強もせず、いかにクライアントに高い制作料で契約をつけるかばかりを考えていた、エセWEBディレクターとはよくぶつかった。

よくあったのは、知識がないから予算内で出来もしないような要件を調子をこいて受けてくることや、専門知識がないクライアントにうまいことを言って、半ば騙すような法外な金額で契約するようなやつだ。

一番最悪なのは、ミーティングにも同行させられ、企画等もすべて丸投げしてくるやつだ。

ディレクションができないのなら、最初からそう言えばいいのに、こちらに投げてくる仕事があまりにも多いので、ディレクションの見積もりは別見積もりでと要求すると媚びるような感じで、追加料金はなしにしてほしいとせがまれる。

僕たちは、「業者」じゃない。どんな仕事でも「業者」扱いされた時点でそいつとの縁は切るべきだと僕は思っている。

もし、縁が切れずにずるずるとなるようなら、自分がしんどい思いをすることは間違いない。

エセWEBディレクターのお陰で僕は学んだ。

パートナーとして対等にビジネスができる相手と仕事をするべきだ。

こちらが下手にでたり、媚びへつらう必要があったり、お願い営業をしなければならないそんな相手とはいい仕事ができないし、長続きしない。

僕は納得がいかなければ、「おかしい」ということを、とことん突き詰めた。

結局、エセWEBディレクターは、時代の流れと共にどこかにいなくなってしまった。

クライアントも馬鹿じゃない。メッキは剥がれるのだ。

何年かしてから、エセWEBディレクターのひとりから、『僕に失礼なメールを送るんじゃない!』という主旨のかなり怒りモードのメールが送られてきた。

あなたにメールなんか送ってませんけど?と思いながら、読むと、僕の会社名と似た名前の会社からの営業メールに激高したらしい。(まあ、それくらいのことで怒るのもどうかと思うが。)

もちろん、大人な対応を僕はした。

失礼ながら、僕の会社は○○で、メールの送信元の●●という会社は別の会社のようですね。こちらからはメールはお送りしていません。

という内容でとても丁寧に書いた。

あなたが、このエセWEBディレクターの立場ならどうするだろうか?

僕なら、大変申し訳無い。とまず謝り、こちらの勘違いで不快な思いをさせてしまったことを即座に詫びる。

だが、エセWEBディレクターからは何の返信も、連絡もなかった。

失礼にも程があるとは、まさにこのことだ。

その程度の人間なのだ。

そういった人間と仕事をして、時間も気持ちをすり減らすのは、限りある人生、とってももったいないと、僕は思う。


その程度の人間[起業話#15]その程度の人間
[起業話#15]

メッキをまとわない[起業話#14]

20代や30代前半もしくはそれ以上の年齢でも、特に起業したてのホットな人間というのは、やる気に満ち満ちていて、いわゆるギラギラしている状態の人間が多い。

同年代の起業家の集まりや飲み会があったりすると、まー、ギラギラしているね。

「自分のところはこんなに儲かっている」

「あいつの会社はこんなことをしたから業績が下がったんだ」

「これからやる事業がハンバ無くうまくいきそう」

そんな話でもちきりだ。

まあ、起業家、社長、というのは基本的に一般人と比べて、失礼ながら変わった人が多いので、これくらいは別にいいとは思うのだが、僕がいつも懸念するのは自分にメッキを付けないようにすることだ。

どういうことかというと、事実以上に自分を上に見せないということだ。

実際は、自信がないのに自信があるように振る舞ってみたり、お金が火の車なのに儲かっているように見せたり、事業がうまくいっていないのにうまくいっているように見せることだ。

当然、バカ正直にこれらを話すのもNGだ。

バカ正直に話したところで、悪い噂が広まって顧客離れや業績不振に影響するのがオチだ。

だが、必要以上に『上』に見せたところで、そのメッキは直ぐに剥がれてしまう。

一時的に、騙くらかすことはできるかもしれないが、結構そのメッキというのは、すぐに剥がれてしまう。

だけど、特に男性は自己顕示欲が強い。

社長の尺度というものは、会社の規模や従業員の数、年商や自分自身の年収になってくるため、それらの話題になった時に、強がったり、事実以上に大きく見せることが多い。

だが、僕はこの点をできるだけ自制した。

煽られれば「いやいや僕だって!」という気持ちも出てこないわけではないが、そんな気持ちに負けて自分を強く、大きく見せたところで、得することがあまりない。

実際、自己顕示話の結果、「わーすごいですね!」なんてヤンヤヤンヤ周りから持ち上げられていたのにある日突然、会社が倒産したり、社長がどこかに雲隠れして居なくなってしまったりということが往々にしてある。

あれ?昨日までなんか、スゴイこと言ってなかった??えー??

なんてことがこれまで何度もあった。

だから、僕は『謙虚さ』というものを自分自身に叩き込んで来た。

自己顕示欲は生意気にも見られかねない。

同世代や年下の人間からは憧れとして映るものも、年上からはタダの生意気にしか映らない場合もある。

もちろん、そのくらいギラギラしている方が面白いね!という年上の先輩たちもいるが、得より損することのほうが多いのではないだろうか。

起業して、「社長」と呼ばれ出すと、どんな人間でもちょっと勘違いしてしまうことがある。

もし、あなたがこれから起業するのなら、その勘違いから生まれるギラギラやメッキに是非気をつけて、客観的に見てもらいたいと思う。


メッキをまとわない[起業話#14]メッキをまとわない
[起業話#14]

経営者が集まる場所[起業話#13]

経営する立場になって初めて知ったのだが、経営者や経営幹部が集まったり、参加する団体等者が世の中には星の数ほどある。

JC、ロータリー、ライオンズ、中小企業同友会、倫理法人会、守成会。

経営者が集まる会となると、こんなものじゃない。その他、勉強会などを含めると様々な団体や組織がある。

その数は、本当に計り知れない。

オブザーバなどで呼ばれて、顔を出したことがあるが、そこには有名企業の重役もいれば、聞いたことがない会社もたくさんあった。

最初は「経営者となるとさすが、すごくレベルが高いことを勉強しているな…。」と感銘を受けたことを覚えている。

僕は、経営の勉強を全くしたことがなかったので、その新しい世界に刺激を受け、正式入会はしなかったものの、勉強会には顔を出すことが多くなっていた。

名だたる企業の社長や重役と肩を並べて、その場にいるだけで自分が偉くなったような錯覚も覚えたような気がする。

そう言った場では、たいてい会の後に『懇親会』と言われるものが開催される。

そこで僕は若手だったこともあり、先輩経営者に色んな方を紹介してもらった。

そして、名刺交換を山ほどした。

これが、人脈が全くないスターター企業にとっては、とてつもない力になる。

その場で自分の事業をどれだけ魅力的にプレゼンできるかが、その後の社運に繋がるといっても過言ではない。

後日、名刺交換先の企業から、仕事を依頼を受けることも少なくなかった。

もちろん、自分から営業(売り込み)をすることを厭わないスタンスなら、名刺交換してくれた人にハガキや手紙を送るのもありだと思う。

マメな人は、名刺交換した人全員に手書きのハガキを送る人もいるくらいだ。

だから、スタートアップしたての会社はこういった場にこまめに顔を出し、人の繋がりを太くしていくことはとても得策だと思う。

ただ、僕はそうしなかった。

こういった人脈作りがダメというわけではなく、僕の場合は、僕の性分に合わなかったのだ。

だから、様々な経営者の団体から加入してくれとオファーをいただいたが、丁重にお断りした。

まず、毎月もしくは毎週定期的に参加しなければならない会は、自分の時間をその間拘束されてしまうし、話をしていて楽しい人ばかりではない。

楽しくなくても、それなりに「大人の対応」をする必要があることに疲れてしまうのが分かっていたからだ。

自分でも思うが、経営者なら、これらのことは率先してやるべきだと思う。

これしきのこと、ガッツで乗り越えられる性分の人がたいていだと思うし、成功している周りの経営者仲間も、実際こういったことを熱心にやっている。

人脈が事業にどれだけ影響を与えるかは、僕も身をもって経験している。

だから、もしあなたが企業を考えていて僕ほどめんどくさがりでないのであれば、こういった場で、ドンドン人脈を作っていくことをオススメする。

起業してうまくいくかどうかは人脈作りにかかっているといっても過言ではないからだ。

自分の事業地にある、様々な経営者団体を調べてみるのもいいと思う。

各団体毎にカラーがはっきり別れているし、自分の事業にあった団体というものもある。

そして「懇親会」では、是非積極的に『プレゼン』をして欲しいと思う。

その効果は、歴然と現れるはずだ。


経営者が集まる場所[起業話#13]経営者が集まる場所
[起業話#13]

仕事のスタンスを決める[起業話#12]

営業をしなくても仕事をいただけていた当時、最初はクライアントから直接依頼をいただくことが多かったが、そのうち、広告代理店や印刷会社が間に入り、仕事をいただくパターンが増えてきた。

要は、顧客との直接取り引きではなく、間にその会社が入って、クライアントと打ち合わせをしたりするのだ。

要はエージェントというやつだ。

制作費はもちろん、間に入っているエージェントから頂く。

エージェントからクライアントにいくらの値段を請求しているのかは知るよしもなかったが、おそらくコチラの見積もりの2倍以上を出していることは間違いないと思う。

よくそれに異論を唱える人もいるが、仕事を取るということ、間に入って責任を保証するということは、とても大変なことだ。

この手の世の中の仕組みに対して、僕は特に何も思わなかった。

ただ、そんな中、大手のエージェントを通して、決まっていない仕事の企画を持ち込まれることがあった。

つまり、コンペだ。

特に、行政関連の案件では必ずと言っていいほど、このコンペがある。

これが、意外に大変なのだ。

コンペなので、採用されなければ当然報酬はでない。

もし、仕事が取れたらこちらに仕事を任せるから、コンペを通るように良い企画書とデザインを作って欲しいというのがエージェントからの依頼だった。

エージェントは、それまで紙ものやテレビCMなどの仲介をしていた業種だ。

急に勢いを増してきたWEB関連のいい感じの企画をできる人間は、当時まだあまりいなかったのだ。

そのため、自分たちではコンペに通る企画ができないと考えたエージェント達は僕に依頼してきた。

コンペのための企画書づくり、ラフデザイン(→コンペが通ればほぼその通りになるので、ラフどころか本格デザインとなることが大抵。)はとても時間がかかる。

だけど、その仕事を取れたら結構な大口取引だった。

だからこそ、僕は報酬をもらえないかもしれないと分かっていながらも、何度もコンペ案件を受けた。

そのエージェントにお世話になっていたから断れなかったということもある。

実際、僕の企画案は行政のコンペで何度か採用された。

もちろん採択されない場合もあった。

そうこうしている内に、コンペの裏事情をいつの日か知るようになったのだ。

それは何かと言うと、『出来レース』のコンペがあるということだ。

明らかに自信があったプレゼンだったのに、取れなかったことが何度もあった。

当然、僕の企画案より優れた案だったということもあるだろう。

しかし、世の中には、不条理というものがある。

行政は、1つの企業に発注が集中しないよう公平性を期すためにコンペをするというのが、決まりとなっているのだが、実際はすでに発注先が裏で決まっていて、建前上、一応コンペをやっておくということがあるらしいのだ。

馬鹿馬鹿しい!

僕が費やした時間と労力を返せ!!

と息巻くことはなかったが、まあ、世の中そんなもんだろうなと思った。

そのことを知ってからは、コンペの主催と参加企業の顔ぶれを見るだけで、「ああ、今回はあそこの会社だろうな」と勘が働くようになった。

それで、僕はコンペ案件を受けることを辞めた。

「僕にお願いしたい」と言ってくれるクライアントだけの仕事を受けることにしたのだ。

幸い、ご依頼を頂き続けていたからこそ、そうできたのだが、僕にラブコールを送ってくれたクライアントを差し置いて、通るか通らないか、はたまた『出来レース』かもしれないコンペに時間を割くことを辞めたのだ。

求めてくれるクライアントにこそ、時間と情熱を費やそうと決めたのだ。

もちろん、大型のコンペに通れば、知名度も報酬もドンドン上がる。

だから、これは考え方だと思う。

事業をしていると、想定しなかった事に対しての決断を求められるということが往々にしてある。

その時、どんなスタンスを自分は取るのかという軸が重要なのだ。


仕事のスタンスを決める[起業話#12]仕事のスタンスを決める
[起業話#12]

スタッフを雇う [起業話#11]

順調に、また途切れることなく仕事をいただくようになり、初めての仕事を受けて数ヶ月後には海に入る時間さえ圧迫されるようになった。

海に入ってサーフィンをすれば、当然その他の時間を犠牲にする必要があり、文字通り、寝る間もないほど忙しくなった。

月々の売上もある程度コンスタントにあったため、僕は僕がやらなくてもいい仕事をお願いできるスタッフを雇うことにした。

だが、後から考えると、この考えは「僕にとっては」大きな間違いだった。

「人を雇う」ということは、『僕にとっては』大きな間違いだったのだ。

それが何故かは、いつの日かまた改めて書こうと思うが、簡単に言うと、人を雇う、つまり人をマネージメントできる人間とできない人間がこの世にはいる。

後者の人を雇う(マネージメント)できない人間は人を雇ってはいけないのだ。

それにも関わらず、人をマネージメントする立場になると、自分もスタッフも不幸になってしまう。それを僕は自分の経験から大変痛い思いをして学んだ。

どうしても人が必要な時は、並ならぬ努力をして、勉強をしてマネージメント力を鍛えるか、すでにそれができる人間に任せた方がいい。

ただ、その場合、その分の人件費などが当然かかってくることも考えておかねばならない。

 

さて、単純に時間がほしいから、人を雇おうと考えた僕は、また単純にその頃知り合ったばかりの友人(仮名:ヤスオ)に声を掛けた。

(そして、これがさらに大大大間違いだった。何故なのかはまたいつかの機会に。)

ヤスオは迷っているようだったが、当時彼はフリーターで2つのバイトを掛け持ちしていた。

僕が提示した時給は、その2つのバイトよりも高額だった。

パソコンはインターネットを見る程度ということだったため、制作に関してはある程度時間が必要だと思ったが、書類づくりやその他の簡単な作業をお願いできるだけで、当時の僕は助かる状態だった。

返事をもらうまでしばらく時間がかかったが、最終的にヤスオは僕の仕事を手伝ってくれることになった。

ヤスオの家は僕の事務所から来るまで30分以上と遠かったため、深夜のバイトもしていることから、こちらの仕事を手伝ってもらうのは平日14時から17時でお願いした。

しかし、彼は最初から遅刻グセがあった。

遅刻どころか、しょっぱなから無断欠勤があったのだ。

だが、僕も甘かった。

友人だからというのもあり、さらにこちらから声をかけた引け目もあり、それらに関しては注意することもなく、「次から頼むよ」といった具合に黙認したのだ。

そんなことがあったものの、実際、人柄は良く、仕事に関してや初めてのスキルを習得する一生懸命さもあり、僕のことをとても助けてくれた。

だから、僕はそれほどまでに問題にはしなかったのだ。

 

そんなこんなで、僕の起業ライフはそれまでのひとりの歩みから、ヤスオというスタッフと共に歩むスタイルへと変わった。

個人事業として屋号を構え、仕事をもらえるようになり、事務所を構え、スタッフを雇った。

これらのことを「やろうと思ってもなかなかできないよ。」と多くの人に言われた。だが、着々とそれらが進んで行くことに、僕はちょっとした自信を持つようになっていった。


スタッフを雇う [起業話#11]スタッフを雇う
[起業話#11]

参入タイミングというもの[起業話#10]

僕は流れで個人事業を起こし、営業するまでもなく、お仕事をいただき、海と仕事の両立をするために事務所を借り、それはそれは順調だった。

前にも書いたが、それは、僕が優秀だったからとか、仕事ができるということはまったくなく、周りの人や仕事を紹介してくれた人、若手をサポートしようという気概のある方々のおかげ以外の何物でもなかった。

また、さらに重要だったのは、右肩上がりの業種だったということだ。

起業やお店がホームページを持つことが当たり前になりつつあった時代。

地方には東京の流れが1、2年遅れてやってくることから、僕の地元では、ちょうどその波が来ている時だった。

当時、調べたときにはホームページの制作をするとうたっていたのは地元の印刷業者や、映像制作の会社などで、その会社も殆どは外注に出していた。

その外注に出す先で、本当に制作をしてる会社というのが、本当に数えるほどだったのだ。

そのような状況の中、僕は東京で、しかも航空会社のWEB事業という一応WEB業界の最先端を見てきていたと思う。

だからこそ、提案内容や、アドバイスはとても受けた。

今では、個人から法人までWEB制作を請け負う会社はたくさん存在する。

だから、今の時点で参入するとなると競争相手も多く、価格競争も生まれ、なかなか大変だっただろう。

だが、僕が始めた頃は、ほとんど言い値で仕事が取れた。

むしろ、個人でやっていた僕は安い!と感謝されるほどだったのだ。

狙った訳ではなかったが、参入タイミングがばっちりヒットしたのだ。

もし、あなたが今起業を考えているのであれば、その事業内容の参入タイミングが重要になってくる。

これから伸びるであろう新しい業種だったとしても、早すぎれば世間は見向きしてくれないため、最初から仕事がとれずにつまずいてしまう可能性がある。

逆に長年存在する成熟業種であれば、それなりのビジネス戦略が必要になってくる。

例えば、税理士として起業を考えているのであれば、税理士は長年存在する業種だ。

すでに多くの起業はお抱えの税理士法人と契約をしているだろうし、新規顧客をゲットするとなると新しく起業や独立する人を狙うしかなくなってくる。

ただし、それだけでも顧客を増やせないとなると、いま存在する企業が、現在契約している税理士を振り切ってまでこちらを向いてくれる何かが必要になってくる。

それを、どう伝えるか、どう表現するかということまで重要になってくる。

起業するときには、今、自分の業種の成熟度がどの程度で、社会からの要望度がどの程度化を把握し、それらの条件を踏まえて独自の戦略が必要になってくる。

僕は、そんなことも知らずにのん気にやっていたなとつくづく思う。

自分の業種の参入タイミングを客観的に見つめ、確実に詰められる戦略を立てることは倒産しないための必要不可欠条件なのだ。


参入タイミングというもの[起業話#10]参入タイミングというもの
[起業話#10]

事務所を借りる[起業話#9]

初めての仕事を納品し、その後も立て続けに依頼をいただき、精力的に活動を始めていたが、その頃はまだ空いた時間はサーフィンをするために真面目に海に通っていた。

実家ぐらしの僕は、屋根裏部屋にデスクトップを置き、昼夜制作に勤しんで来たが、サーフポイントとなる海岸までは車で30分ほどかかった。

そのため、天気予報とにらめっこしたり、友人からの情報でいい波が来ていると分かると、ソワソワしっぱなしだった。

海に入りたくても、やらなければならない仕事があるときには、それをこなしてから海へ向かい、もうその頃には、波が落ちてきたりしている事が多く、ガッカリしたり、朝一で海に向かい、普通の人が働く時間に実家に戻ったりしている内にどうしてもその移動時間がもったいなくてしょうがなくなってしまった。

いい波が来ていれば直ぐに海に入りたい。

でも仕事もきっちりこなしたい。

その葛藤の末、僕が選んだのは、海の近くに事務所を借りるということだった。

しかも、海上がりにシャワーが浴びられるように風呂付であることが必須だったので、アパートの一室を借りることにした。

当然、家賃というものがかかるが、その頃には常に3、4本の仕事を抱えている状態で、売上は貯まる一方になっていた。

だから、多少コストを掛けても十分な利益が残る状態だったのだ。

ちょっと前までは、お金がなくなる不安に追われかけていたが、その頃にはもう余裕をもって敷金礼金を払って事務所の手続きができるまでになっていた。

しかも地方の海辺の町は家賃がとても安かった。

1LDKで駐車所までついて、確か4万円代だったと思う。

それまでは寝る場所も仕事の場所も同じ建物内だったため、メリハリがつきにくかったが、寝食をする場所と仕事場をある程度の距離で隔てることによって、気持ちのON・OFFがきっちりつくようになった。

こうして新しく「仕事場」を持ったことによって、一段と気持ちが高まったことを覚えている。

それは、自分自身がちょっと誇らしい気持ちだった。


事務所を借りる[起業話#9]事務所を借りる
[起業話#9]

パソコンひとつ身ひとつ[起業話#8]

業種によって起業の重みは違ってくる。

僕の場合は、WEB制作という業種だったため、ある意味パソコンひとつで起業が可能だった。

厳密に言うと、いい仕事をするとなると、カメラやプリンターなども必要だが、パソコンひとつでも仕事ができると言えばできる。

だが、例えばお菓子を作る会社だったり、建築業、福祉事業で起業するとなると、建物、スタッフ、機材、材料など、とてつもなく多くの要素が必要となる。

そうなると、当然初期投資に必要な資金は膨大になる。

僕の周りにも介護事業や食品製造業などで起業した友人がいるが、本当に尊敬する。

最初は1千万円など小さく借り入れをし、徐々に実績を作って、数年で数億の借り入れをして、事業を大きく育てていくその背中は同世代とは思えないほど逞しい。

もしあなたが今、起業することを考えているのであれば、その業種や事業内容によって、どの道となるのかを事前に知っておく必要がある。

僕の場合は、

・借り入れはしない

・可能な限りシンプルで身軽な体制

=パソコン一台、人も雇わない、オフィスもあってもなくてもいい

・小さなリスクと労力で最大のレバレッジを得る

というのが、ポリシーだ。

しかし、これは、僕の業態だからこそ可能であり、地域に根を張り、人との繋がりを大切にして、信頼を徐々に勝ち取っていくべき業態の場合は不適切になることが多い。

だからこそ、今あなたが起業を考えていて、様々な情報収集をしているのであれば、あなたの事業を成功に導く起業のための情報を集める必要がある。

なんでも起業関係の情報をすべて適応させてしまうと、とんでもない方向に言ってしまうことがあるから注意が必要だ。

 

あなたの事業を成功に導く情報は、どうやって集めるか。

それは、同業者の同じ起業家に聞くのが一番だ。

2代目、3代目でもいいが、できれば創業者がよい。

創業者ならではの悩みや起きうる将来をよく知っているからだ。

「同業だと冷たくあしらわれて、情報なんてもらえない」という場合もあるが、そんな人は、まだまだ駆け出しの若手に手ほどきをできる器のちっさい人間なので、そんな人間には、寄り添わなくてOK。

本当に懐の深い、人としても尊敬してしまう人というのは、同じ業種で頑張ろうという若手がいたら、とってもかわいがってくれるものだ。

実際、僕も同業の先輩にどれだけ助けてもらったことか。

そういった懐の深い人というのは、やはり実直に成功を重ねている。

もちろん失敗もその分しているが、それでもたゆまぬ努力を積み重ねているので、結果的に成功を重ねることになっているのだ。

 

さて、僕と同じくパソコンひとつで起業可能な業種で身軽に創業したいと考えているのであれば、創業時にたくさんの資金が必要となる事業に比べ、リスクは少なく、波に乗るチャンスはたしかに多いと思う。

だけど、そんな状況なのに起業をしようかな…、どうしようかな…、と躊躇をして、結果的に3年、5年、10年経ってしまう人も少なくない。

僕は起業はベストだとは思わない。

それをベストにできるかどうかは、当の本人次第だ。

覚悟があるとか、想いがあるとか、そんなものも関係ないと思う。

(実際、僕はそんなものなくいつのまにか起業していたからだ。)

恐らく、起業のスタートに必要なのは、興味を持ったことをとことん突き詰めてと何事も楽しんでしまう性分と、ワクワクすることぐらいじゃないだろうか。

そして、無駄な恐怖心を捨てることだ。

僕は起業しようと思ってしていないから恐怖心なんてなかったが、「よし!会社を辞めて、起業しよう!(会社辞めたら明日から収入0だ)」と息巻いていたら、恐怖心があったかもしれない。

だけど、それが全ての判断を狂わせる気がする。

未来をどれだけ考えても、結局未来なんて誰にも分からないのだから。

あなたが起業を考えているのなら、是非楽しんで欲しいと思う。


パソコンひとつ身ひとつ[起業話#8]パソコンひとつ身ひとつ
[起業話#8]

会社名を考える[起業話#7]

個人事業主の届けを出す時に必須となってくるのが会社名だ。

これを考えるのはワクワクもするし、大きな悩みでもある。

「法人化と覚悟」の記事にも書いたように、僕は個人事業を1年半、その後、法人化し10年を経て、新しくまた別法人を立ち上げている。

法人化と覚悟|(第2話)自分で株式会社を作ってみた

個人事業で屋号を決め、法人化の際はその屋号に前株とした。

そして、最近立ち上げた新しい法人は全く異なる名前の後株にした。

初めて社名(屋号)を決める際は、あれこれ考えすぎたと感じている。

かっこいい名前にしようとして、いろいろと考えはしたのだが、その名前はとてつもなく聞き取りにくく、僕は10年以上もの間、何度も電話口で社名を繰り返す羽目になった。

だから、最近立ち上げた法人の名前は、音がはっきりしていて聞き取りやすい社名にした。

また後株にしたのは、尊敬するとある企業の社長から、名前が主体なのに先に「株式会社」が付くのはなんだか株式会社であることの方が誇張されているように思う。という意見を聞き、なるほどなと思ったので、主体となる社名を前に「株式会社」を後に付けた。

最初の社名は、2文字と短い名前だったので、覚えてもらいやすかったが、なんせ初めて社名を聞いた人が聞き取ってくれる確率が本当に低かった。

だからこそ、これから社名を決める人にできるアドバイスと言えば、聞き取ってもらいやすく、覚えてもらいやすい社名を心がけるのが一番だと思う。

つまりは長すぎてもダメということだが、凝りすぎるとハズすという傾向も僕は知っている。

確かに、自分が立ち上げる会社は思い入れもあるだろうし、これからの未来に掛ける情熱も表現したいと願い、ついつい思いばかりが先行して、カッコイイものを求めがちだが、肩の力を抜いて8割ぐらいの熱い想いで、親しみやすいものが一番ベストだったりするというのが僕の暗黙知だ。

また、字画などをそっちの世界の「先生」と呼ばれる人に高額な料金で見てもらい、社名そのものや漢字、アルファベット、ひらがなのどれがいいかと決めている人もいるが、好きな人はそうすればいいと思うが、僕ならしない。というか、実際にしなかった。

その人の勝手だし、僕のお金ではないので別に否定はしないが、そこに頼り出しておかしくなってしまったり、停滞している経営者や企業をたくさん見てきたからだ。

個人一人でそういったものに関わる分には何の害もないが、顧客や取引先、そして何と言っても社員という大事な関わりを持っている経営者は、自分という軸を持っていることが一番重要だと思っている。

「名は体を表す」のことわざ通り、カッコつければ、カッコつけた感じになり、己の勇んだ感じや、虚勢というのは絶対に滲みでてしまう。

だから僕は、最近立ち上げた新しい法人の名前は聞き取りやすければOKぐらいの気持ちで、8割ぐらいの熱い想いで考えた。

実際、社名に食いつかれることもなく、かといって電話口で聞き返されることもないし、一度言ったら忘れられることもないので結構気に入っている。

だけど、ちゃんと僕の理念と企業コンセプトは注入してある。

一度付けた社名に後から「失敗したー!」と思っても、社名は登記上変えることもできるのだし、是非肩の力を抜いて8割ぐらいの熱い想いで考えることをオススメしたい。


会社名を考える[起業話#7]会社名を考える
[起業話#7]